磯貝 和範
星槎中学高等学校 スクールカウンセラー
入社年度:2009年4月
教育が新たな可能性を育てる機能であるならば、
それは私たち大人に課せられた責務であり、
星槎はその可能性を創造する集団です。
- 業務内容は?
- 学年主任、副担任とカウンセラーを兼務しています。2016年度より生徒相談室を立ち上げ、相談業務をしています。
本校は一人ひとりのスペシャルニーズにできる限り応えていく学校です。これは私たちすべての人間が言えることですが、生徒たちはさまざまな特徴をもっています。長所もあれば短所もあります。学校という場は、それらの特徴が普段の生活や行事などを通じてさまざまな形で表現されるところです。例えば、走ることが得意な生徒がそのすばらしい自らの長所に気づくのはどんな場面でしょうか。おそらく体育の授業や部活動、体育祭などの行事でしょう。短所についても同様に、ある限定された場面でそれが活性化してしまうことがあります。
学校にはさまざまな「場面」があります。それ故、長所が大いに発揮される場面もあれば短所がクローズアップされてしまう場面もあるのです。そんなことは当然のように思われるかもしれませんが、これらの特徴が著しい場合、日常の「ある場面」が悪夢のように感じられてしまうのです。このような場面が日常的になれば、そこから逃げたくなったり、抵抗したくなったりすることは当然だと考えることができるのではないでしょうか。さらには中高生という人生の中で最も多感な時期には、心理的にも大変不安定になることがあります。学校は生活の場であると同時に、めまぐるしい回転舞台のように多様な表情があります。それ故、そこに生活する子どもたちにとって、身近でありながら一定の距離感を保ち、専門的な視点をもって相談・分析・解決ができる役割が必要なのです。
生徒相談室ではすべての在籍生徒について傾向を専門的に分析・把握した上で、可能な環境調整や支援について教員とともに考え、検討し、個別指導計画(IEP)を作成します。個別指導計画(IEP)は適切な環境的配慮や支援の方法にしたがって個人の到達目標を設定し、それを達成させることによって得られる自信の回復・向上を目指すものです。つまり、一定の条件を整えた上で自助努力の意識を活性化させ目標を達成させることに狙いがあります。そのためには目標に対する着実なステップを継続させることが必要です。それらの取り組みに関する支援方法や教材づくりを行うことも生徒相談室の重要な役割です。
そして、カウンセラーは精神的な不安定さやさまざまな困難をもつ生徒たちに対して、適切なアセスメントを行い、問題解決的な相談業務を行うほか、保護者に対する状況説明や協力の要請、さらに困難な事例については外部機関と連携しケースカンファレンスを行うなど外部との窓口としての役割ももっています。そうした生徒を取り囲む環境に介入し、改善するために必要な手立てを実践することがスクールカウンセラーの仕事です。 - SEISAに入社した経緯(理由)は?
- 私は一般企業からの転職を経て学校の教員を目指していました。星槎への入社以前、学習塾の講師をしていた時期があり、その当時在籍していた生徒の中に星槎中学校に通う女の子がいました。成績は大変優秀で気立ての良い子でしたが、コミュニケーションはどこかぎこちなく、なかなか周囲から理解の得られにくい部分がある生徒でした。この出会いで私は初めて「星槎」を知りました。
30歳で教員免許を取得し、いよいよ教員採用の就職活動をはじめたとき、勤めていた塾の室長から星槎を勧められました。私には、先に述べた生徒の通う学校という程度の知識しかありませんでしたが、次第に「さまざまな先進的な取り組みの中で教育の多様性を切り拓いてきた学校」ということを知りました。当時の「普通の先生になりたい人は帰ってください」というメッセージも私にはとても印象的で、むしろ好意的に受け止めていました。「普通の先生」以上を目指してみたいという気持ちから入社を希望しました。 - 業務で大切にしていることは?
- スクールカウンセラーの多くは非常勤などの巡回であり、学校に常駐する者は少ないと言われています。これはカウンセラーの第三者性を維持するための仕組みであり、クライアントの機密保持という観点からも非常に重要な考え方といえます。しかし、私は教員出身の学校心理士という立場から、学校という場により特化したカウンセラーのあり方について考えています。
星槎の教育は、「関わり合い」を基礎にした学校の中に社会を見出すという考えのもとに成り立っていると思います。その中で、心理的な側面から、カウンセラーも例外なく生徒と教員と保護者と関わり合いをもって活動をしています。彼らを見守り育む環境の一端を担う大人として日常からの関係性を大切にしたいと考えています。 - 喜びややりがいを感じるときは?
- カウンセリングは魔法ではありませんから、問題や悩みが数回の相談で消え去るようなことはありません。大切なのは自分自身に深く向き合う機会をもつことであり、困り感や生きづらさが生じたときに相談できる場があるということです。大人が生徒の言動を見て注意を促したり、話をしたりする以上に、自ら辛さに気づき、考えている生徒はカウンセリングによってさらなる深い気づきにつながったり、行動・認知変容に結びつきやすい状況だといえます。
しかし、自分の内面にその原因を求めることは容易ではなく、家庭や学校、友人など環境的な原因の改善にとどまるのが通例です。これは自己嫌悪感や自責の念を強化したりすることではなく、自分の思考や行動の傾向として積み重ねてきた結果として表現されているだけにすぎず、その根底に気づき変容させることは不可能ではないという自己肯定感につなげていくことが必要なのです。これを専門的には「スキーマの外在化」と言いますが、これは生徒とカウンセラーが共通の目的に対して共闘の体制を築く大事なプロセスです。
この状況に引き上げられた生徒は自分に対する向き合い方が変わってきます。もちろん浮き沈みは繰り返しながらですが、自分の力で自分自身と戦う方法を身につけ力を蓄えている様子がうかがえるようになります。
- SEISAの良さとは?
- 三つの約束を伝え、実践する集団であることです。シンプルでありながら極めて深遠であり、かつ大変難しいことです。それは我々のエゴに反するからでしょう。しかし、それに挑戦し続け克服していくことは、大げさではなく、全人類的なテーマだと思います。
教育は次の世代のスタンダードをつくり上げるシステムのひとつであり、このテーマが連続的に語り継がれる仕組みをつくっていくことが星槎の使命であるように思います。その物語を「本気で」実践し実現していく集団なのだと考えています。 - 今後の目標は?
- カウンセラーとしてのスキルアップです。他者の心と向き合うためには多くの知識と経験が必要です。私はまだまだ未熟なので、今後も一層研鑽を重ねなければなりません。わが国の心理・精神に関わる療育は世界的に遅れをとっていると言われています。今年度は公認心理師法が施行される予定になっており、今後、日本の心理に携わる仕事のあり方も変化していくことが期待されます。資格や法整備もさることながら、私自身が現場で相対する生徒にどれだけの支援が可能であるのか、その枠を広げていくことを意識し、目標としています。
- SEISAの教員を目指す方へ
- 星槎はパイオニアとして日本のインクルージョン教育を牽引してきました。常に新たな道を切り開く姿勢はこれまでの保守的な学校教育とは一線を画しているものだと思います。もちろんそれには困難がつきものであり、それなりの覚悟は必要なことでしょう。しかし、教育が新たな可能性を育てる機能であるならば、それは私たち大人に課せられた責務であり、星槎はその可能性を創造する集団です。その大きな志をもって共に活躍してくれる仲間を待っています。